2013年7月27日(土)、東京都の早稲田大学において震災支援ネットワーク埼玉(SSN)と東京災害支援ネット(とすねっと)の共催による「首都圏避難者の生活再建への道~大規模アンケートにみる避難者の「声」~」が開催されました。
このシンポジウムでは、2013年3~4月に東京・埼玉への避難世帯4,268世帯を対象に実施された大規模アンケートの集計結果とあわせ、法律家や医師、支援者などさまざまな専門家による分析をパネルディスカッション形式で聞くことができました。また、パネリストとして福島県浪江町の馬場町長も登壇され、指定避難区域の抱える課題について切実な訴えを直接聞くことができました。
詳細は後述しますが、このアンケートを通じて、東日本大震災と原発事故が発生して3年目を迎えてもPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの強いストレス症状が軽減していないことが明らかになっています。自然災害などの場合は自然に数値が下がるのに対し、ストレスの要因である、住宅問題、賠償問題、家族離散、経済的負担などの社会的課題が解決していないことが考えられます。こうした問題の解決には専門家の力が不可欠です。いま求められているのは、支援団体や専門職団体と連携・協力しながら、支援を必要とする人の声を拾い上げて支援者とつなぐ「オーガナイザー」の役割だと指摘されています。
2013年のアンケート報告書とシンポジウムの資料はこちらからダウンロードできます。
また、2012年の第1回アンケート調査は、埼玉県内への避難世帯2011世帯を対象として実施されています。報告書はこちらからダウンロード可能です。
《シンポジウム概要》
◇第1部
早稲田大学人間科学学術院ワーキンググループによる2013年度避難者アンケート集計分析結果報告
増田 和高(社会福祉士・早稲田大学人間科学学術院 助教)他
◇第2部
パネルディスカッション
アンケート集計結果から視えてくる避難者の生活再建への課題
【コーディネーター】
猪股 正(弁護士・震災支援ネットワーク埼玉(SSN)代表)
【パネリスト】
馬場 有(福島県浪江町 町長)
森川 清(弁護士・東京災害支援ネット(とすねっと)代表)
辻内 琢也(心療内科医・早稲田大学人間科学学術院 准教授)
薄井 篤子(復興庁男女共同参画班 上席政策調査官)
《アンケート概要》
実施期間:2013年3~4月
対象:東京都内2,393世帯と埼玉県内1,875世帯(合計4,268世帯)
方法:福島県生活環境部被災者支援課の協力により、県・市町村の広報誌類と共に各世帯に郵送。
回収数:499件(埼玉県254件、東京都233件、不明22件、回収率11.7%)
《アンケートの目的》
大目標:(1)現状把握、(2)今後の支援のあり方を検討、(3)行政への提言
●パネルディスカッションでのポイント
1 避難者の甚大な精神的苦痛と原発損害賠償
2 原発損害賠償請求権の消滅時効
3 生活費の問題
4 家族離散と交通費の負担
5 住宅問題
6 こころのケア
1 避難者の甚大な精神的苦痛と原発損害賠償
外傷後ストレス反応を数値化するIES-Rという尺度では、2012年の平均が36.10ポイント、2013年の平均が31.93ポイントであり(IES-Rでは25点を超えると高いストレス状況にあると判断される)、約6割の人にPTSDの可能性がある。
東電による損害賠償額の基準10万円は、原子力損害賠償紛争審査会が2011年8月5日に出した中間指針を根拠にしているが、これは交通事故の自賠責(=強制加入分)における慰謝料を参考にしている。一般に、交通事故でのPTSD発症率は10%であり、しかも時間の経過とともにポイントは下がっていく。交通事故を参考にしたこの基準には無理がある。また、この基準を決定するときに、該当する自治体における事前の現地調査や相談はなかったという。
法律的観点から見て、自賠責の賠償金額は最低限のラインでしかなく、ADR(裁判外紛争解決手続)等ではこれに対抗するため任意保険の金額をベースに算出している。また、コミュニティが失われたことの重さ、東電の悪質性も争点として訴えていく。
2 原発損害賠償請求権の消滅時効
2013年5月29日に「時効中断の特例法」(東日本大震災に係る原子力損害賠償紛争についての原子力損害賠償紛争審査会による和解仲介手続の利用に係る時効の中断の特例に関する法律)が成立し、6月5日に施行された。しかしこれは自動的に適用されるものではなく、時効期間の満了(最短で2014年3月10日)前に原子力損害賠償紛争解決センターに対して和解仲介申立てを行い、さらにADRによって和解仲介を打ち切った人しか対象にならない。2013年7月時点で和解仲介申立てをした人はまだ12%しかいない。
参考:NHK解説委員室 | 視点・論点 「原発事故損害賠償と時効」
3 生活費の問題
アンケート集計結果では、生活費に困っている世帯が6割以上あり、公共料金を払えない世帯が7%であった。
交流会などでは経済状態の話題はなかなか出ない。自主避難の母子世帯では、少しでも家計の足しにしたいと内職をする人も多いが、疲れも見える。「子どもの学費にいくらかかるか不安」、「以前のように習い事もさせてあげられない」という声もある。
「被災者生活再建支援法」は自然災害の被災者にしか適用されないため、自治体は避難者に対して適用していないが、これを活用できるようにできないか。
法律的な観点からは、原発事故そのものは自然災害に起因して危険な状態になったのだから、対象になりうると考える。
4 家族離散と交通費の負担
母子世帯を対象とする高速道路無料通行措置は再開されたものの、離散している家族は母子世帯だけではない。震災をきっかけに、成人した子ども、配偶者、父母、孫と別居するようになった世帯が多い。対象を見直すべき。
アンケートの自由記述では、「やっととれた休みに長距離運転では交通事故を起こさないか心配」という声があった(実際に高速道路での死亡事故も起きている)。
新潟県では県の事業として高速バス料金の補助を出している。
5 住宅問題
国土交通省による住生活総合調査における「住宅とその周辺環境へ不満率」の全国平均28.4%と比較すると、このアンケートにおける不満率は埼玉県が39%、東京都が29%と高い。ただし仮設住宅よりは低い傾向にある。
借り上げ住宅の入居期間が延長される場合の定住意向は埼玉が4割、東京が6割であるが、有料となった場合は埼玉が1割、東京が3割弱になる。
現状では、家族を呼び寄せたいなどの理由で借り上げ住宅を住み替えると補助が打ち切られる。
6 こころのケア
失業、生活費の心配、相談相手がいないといった要因と、PTSD症状には明確な(統計的)因果関係がある。こうした面での継続的な支援が必要。
一般には傾聴も有効な方法であるが、今回のような状況では、社会的課題が解決しないと要因が取り除かれないため、「話を聴く」だけでは解決しない。
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